稠密なる図書たち

ビブリオバトル用図書の処分状況。

講座の覚書:抽象線型代数ーShift不変部分空間と最小多項式

2週間くらいまえに受講した、線型代数の講座の覚書をここに記す。定義や数式などの話はズバッと省略して、まずキーワードをパラパラと並べて、どんな話を聞いたのかをざっくりと書いて、最後に個人的な感想を述べる。

今まで習ったこと

この線型代数の講座は昨年5月から続いているものである。これまで扱った講座内容についてキーワードを並べると、線型空間の公理、線型部分空間、線型独立・線型従属、基底と次元、線型写像、KernelとImage、線型同型、双対空間、線型写像の行列表示、基底の変換、内積、正射影定理、線型写像のAdjoint、対称変換。基本的には有限次元を中心に扱うけれど、無限次元でもそのまま使える定義や定理についてはこれも含めて話をするという形を取っていた。

今回から3回の講座で、有限次元での線型変換の構造論の話をやる。「ベキ零」「半単純」に分けるとJordan標準形が出てくる、という話。ただし関数解析の無限次元の世界で、この構造論がそのまま使えるかというとそうはいかない。Jordan標準形は一般の無限次元の上ではうまくいかない。今回は将来やるような高級な問題の雛型になるような最も単純なことを扱う。これが高級になると環の表現論になるが、ここではその中で最も素朴な、多項式論を扱う。ここでの話がわからないまま関数解析をやっても、何をやっているかわからなくなるだろう、とのこと。

今回の講座内容

第1回の講座で、出てきたキーワードを並べると、こんな感じ。

・これまでの復習(固有値固有ベクトル・固有空間の定義の確認、基底の変換に伴う行列表示変換、行列式、固有多項式

多項式空間のShift不変部分空間

・最小公倍多項式、最大公約多項式

・Bezoute恒等式

・線型変換の最小多項式

固有値固有ベクトル、固有空間の話は単なる定義の確認だったけど、「固有値固有ベクトル、の順に定義しないとおかしなことになるのに、たまに逆の順序で定義している、おかしな本もある」と先生がぼやいていた。

線型変換の行列表示の復習。可換図式をじっと眺めて、どうなっているのかを理解せよとのこと。これは単純な例だけど、構造で理解することが大切だと先生はよく言っている。構造を見てすぐに見抜けるようになること、でないと無限次元のときに迷い道に入ってしまう、と。

線型変換の行列式も、今までの復習。この行列式は基底の選び方によらない不変量。つまり計算するときは都合のいい基底を使っていいということ。線型変換のTraceや固有多項式も、基底の取り方に依らない不変量。変換のなかにある不変性があって、不変的な対象になり得る。

ここまでの話が復習で、ここからが本番といったところ。Kを体として、Kー多項式全体の作る空間(多元環)を考える。この上でShift不変部分空間(以下、Shift不変と略記する)を定義して、多項式空間の上ならばShift不変とイデアルが完全に一致することを確認する。一般にはこの二つは一致はしないらしいが、多項式空間の上へ概念を矮小化させたものを扱っているのでこの場合は一致するのだ、とのこと。「正則表現」というものをやると、Shfit不変の一般バージョンがあらわれるという。

次に、ここから先の議論の準備として、多項式の算術をやる。初等整数論で言えば、最小公倍数・最大公約数の話。Shift不変と最小多項式が一致することを利用する。「多項式ののイデアルの共通部分と、最小公倍多項式イデアルが等しいこと」「多項式イデアルの和と、最大公約多項式イデアルが等しいこと」を証明する。イデアルを用いると、割り算の構造がよくわかるという話。

続いて多項式のBezoute恒等式。Bezouteは19世紀半ばの数学者で、Cauchyの仕事を一般化した人。

最後に、多項式環線型空間への表現を定義し、「これが多元環の準同型であること」「線型変換の最小多項式を定義し、この線型変換の固有値との関係を調べること」をやった。

感想

まずイデアルが当たり前のように出てきて、当たり前のように使いまくるとういことに最初はちょっと戸惑いを感じた。というのも、私は環論はまだあんまり勉強したことがないからだ。イデアルの定義そのものは単純なのでこれは知っていたけど、どういう局面で使われる概念なのかをほとんど理解していなかった。だからこの講座を受けて「なるほど、こういう風に使うんだ」という意味で勉強になった。今やっていることと並行して、環や加群についてもパラパラと自習しとくのもいいかもしれない。

それと、多項式環の話が中心だが、「割り算の基本定理」もいろんなところに出てくるということもわかった。多項式の算術にはもうちょっと慣れておく必要があるな、という感想。私はまだ多項式の扱いすら慣れていないのだが、将来はもっと抽象的で得体の知れないものを相手にするんことになるようなので、多項式はきわめて具体的な対象なので、まずはこの扱いに慣れておかないとこの先は話にならないだろうな、と、そんな予感はしている。

以上。次回は線型変換の分解や、単純・半単純からやるっぽい。