稠密なる図書たち

ビブリオバトル用図書の処分状況。

日本建築学会構造系論文集 2016年6月 を流し読みした。

序文(研究背景・研究目的あたり)をざっと流し読みしただけだが、思ったことをつらつらと。

掲載論文は11タイトル。かつてと比べて冊子が薄いように思えるのは先月と同様。

Twitterでも触れたけど、山本剛ら「木造住宅の屋根にに堆積した火山灰の滑動に関する一考察」は、かなり珍しい研究だと思う。背景としてあるのは2014年の御嶽山の噴火。これを受けて内閣府はWP(ワーキンググループ)を設立して「御嶽山噴火を踏まえた今後の防災対策の推進について(報告)」という形で今後の火山防災対策について取りまとめている。これはWeb上で閲覧できる⬇︎

http://www.bousai.go.jp/kazan/suishinworking/pdf/20150326_hokoku.pdf

この報告書では、噴火による建築物への被害についての言及はない。しかし過去の事例では、噴火時に堆積した火山灰の重量による屋根の破損、あるいは建物の崩壊というケースはあるとのこと(とはいえ日本では、大正3年の桜島大正噴火以降はこのような被害は見られていないらしいが)。

という訳で噴火時に屋根に堆積するであろう火山灰の重量を正しく評価式をしなければという、そんな研究である。実験風景はこんな感じらしい⬇︎

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濱本卓司ら「形状可変浮体構造物の水槽実験」は、海洋空間を建築に利用するための浮体モジュールについての研究(水槽実験による基礎的研究)。複数のモジュールを連結させることで、形状や規模や機能などを好きなように変えられるというアイデア。このモジュール同士の連結部や係留部に着目した研究。モジュール連結システムというものが具体的にどういうものかというと、このパワーポイントを見るとなんとなくわかったような気分になると思う⬇︎

(以下の画像は”http://news-sv.aij.or.jp/kaiyo/s0/海洋2004.pdf”より)

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今後普及あるいは実用化するのかは謎だが、海に浮く六角形のオブジェという光景のイラストは、個人的には嫌いじゃない。

 

 

 

ウルトラスーパーざっくり線型代数の歴史

微積分の起源といえば、17世紀のニュートンライプニッツにある。これは有名。すごく有名。もちろんその後の時代の流れとともにその理論は進化を遂げたが、とても顕著なエポックメイキングがこの17世紀にあることは間違いない。
では線型代数の起源とは? どんな歴史を経て、いつ頃完成したのか? 私の通っている教室の先生が線型代数の講義のはじめにその歴史をざっくり語ってくれた。それをメモったものをベースにこの記事を書いてみた。
線型代数のアイデアの起源は、実は古代メソポタミア文明まで遡ってしまう。ここでは連立一次方程式の理論も研究されている。13世紀のフィボナッチの算盤でも、連立一次方程式のアルゴリズムの問題が扱われている。現在の線型代数の教科書は行列の話から入っているものも多いが、行列とは、古代からあるこれらの算術に過ぎない。古代中国にも連立一次方程式の行列による解法がすでにあった。
その後の時代の、フェルマーあたりの解析幾何まで行くと、ここで座標という概念のはじまりである。パラメータtによる幾何表現が生まれた。
フランス革命後のころ、微積分が生まれた。ここで線型微分方程式の解法のなかに、重ね合わせの原理という、線型写像を特徴付ける原理も見て取れる。フーリエ級数の理論にも、重ね合わせの原理やテンソル積の起源とも言えるアイデアが含まれている。他にも、微積分の現象を能率よく表すために、線型写像が導入された。今日の数学でいうところの次元も、もとは数理科学のパラメータが起源といえる。このほか行列式外積多様体など線型代数の基本となる概念が19世紀までに数多く生まれたが、今日の線型代数として体系化されるには至っていない。
20世紀に関数空間が誕生した。実はこれは線型代数より先に出てきたのである。そこからヒルベルト空間やバナッハ空間など無限次元の空間が問題となった。この後、ブルバキによって抽象線型代数がまとめあげられた。線型代数の最先端である作用素環に至る。
つまり線型代数の事始は古代なのだが、体系化されたのは20世紀前半の話である。つまり、古くて新しいものなのだ。なかなか渋い学術分野ではないか。

フーリエ級数論を通じて19世紀の実解析学の流れを眺めてみた。あるいは振動論のご先祖様のお墓参りでもある。

弱気なまえおき:数学の話がいろいろ出てきますが、厳密な定義や数式や論理は避け、なるべく直感に訴えるような書き方をしています。ただ、記事に間違いがありましたらそれは私の至らないところとして甘んじて受け入れますので、コメント頂ければ幸いです。

では本題。

私の通っている数学の教室では、今年4月くらいまで、解析学の入門講座があった。具体的には、1変数の関数の微積分について学んだ(具体的にはには、実数の公理系から出発して、数列の収束・収束級数・連続関数・微分・リーマン積分・関数列の収束・形式べき級数・実解析関数としての指数関数や三角関数テイラー展開あたり)。最後のほうでは、フーリエ級数も扱った(具体的には、形式フーリエ級数・ディリクレ核・フェイェール核・ワイエルシュトラス多項式近似定理などなど)。

このゴールデンウィークに、19世紀までのフーリエ級数論の流れを見ることで、実解析学の歴史を俯瞰しましょうという講座があったので、それを受けてきた。フーリエ解析というと、私の専攻である耐震工学でもよく出てくる話。しかし、本格的に勉強したこともないし、もちろん理解もしていない。たとえば建築の構造屋さんには名著と名高い、柴田明徳先生の教科書「最新耐震構造」でも、フーリエ解析に1章を割いている。しかし、さっぱりわからん。用語の意味が色々載ってはいるが、なんでこれらが成り立つか、実際にどうやって使うのかが、私にはさっぱり理解が及ばなかった。柴田先生の教科書を読んで「フーリエ解析」と「ランダム振動」の話を理解できた人はいるのだろうか? という素朴な疑問もある。

 

最新耐震構造解析(第3版)

最新耐震構造解析(第3版)

 

 話を元に戻すと、講座内容は18世紀に勃発した弦の振動方程式論争から始まる。両端を固定した弦ばビロビロ振動する様子を、ニュートン力学に従って微分方程式にしたもの。

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この解、つまり弦が振動するときの変位と速度を表す関数とはどんな関数か? という問題。振動方程式といえば、地震波や建物の地震応答もまた振動。言うなれば、耐震工学でも使われる振動論のご先祖様がこのあたりなのだろう。ありがたやありがたや。

ダランベールとダニエル・ベルヌーイ(以下、D.ベルヌーイと表記する)が、それぞれ別の解を示した。ダランベールの解は純数学的かつ抽象的で、「任意関数」なるもので解を表現できると証明をしたもの。これに対しD.ベルヌーイは、この解は「自然現象の立場から違和感がある」と批判。D.ベルヌーイはこの解は三角関数級数(つまり三角級数)で表現できるとし、楽器の弦で実験してそれが正しいと主張した。純数学的立場VS実験科学的立場。なかなか熱い。

オイラーはこれらの解にそれぞれ批判を示した。ダランベールに対しては「任意関数」つまり関数であればなんでもいいという考えが奇妙と批判。この時代ではそもそも「関数」の定義がはっきりしていなかったという問題もあるが、ダランベールの考えていた関数は、何回でも微分できることを前提としているなど、実は関数ならなんでもいいという考えは成立しない。つまりオイラーの批判は正しかった。D.ベルヌーイに対する批判は、この三角級数による表現がすべての解を言い尽くしているのか? ということ。ちなみにこの時代のアカデミックな論争というのは、今の時代では考えられないくらい攻撃的で辛辣で、相手をコテンパンにしかねないような論調だったとか。ただ現代を振り返ってみても、SNS上の論争がいかに下劣でナンセンスで野蛮であるかを考えると、現代人も昔の人をバカにはできないのではと私は思ってしまうのである。

この論争に一つの答えを示したのはフーリエフーリエの理論は基礎の部分であやしいところがある。たとえば、フーリエは周期2πの連続関数はフーリエ級数で表せるの主張したが、その級数が収束することを前提として話を進めている。ただし基礎は怪しいものの、その怪しい前提を認めてしまえばフーリエの主張は正しく、大きな成果を上げている。ここからダランベールの解もD.ベルヌーイの解も導くことができてしまう。それにフーリエの理論を使えば2階微分の方程式の数理物理の問題が次々に解けてしまう。そもそもフーリエがこの理論を作ったもの熱方程式を解くためだった。

その後、フーリエ級数が収束する条件についていろんな人が研究し、いろんな人が挫折したという。その中で成果を上げたのはディリクレ。しかしまだ未解決の問題はある。それを進歩させたのがリーマン。リーマンの書いた論文の主旨は「収束する三角級数の包括的な研究」であり、特に、ディリクレのやり残した三角級数の一般論を問題にしている。
ディリクレの仕事の未解決問題をまとめると、
・「任意の積分」とは何か?
フーリエ級が収束するための条件は何か?
フーリエ級数で表示した関数が、逆変換でもとの関数に戻るための条件は何か?
となる。まず、この時代までの積分とは連続関数しか扱えなかったが、ディリクレの解決していない問題を扱うために、リーマンは積分概念を拡張して、今まで積分できなかった関数も積分できるようにした(それでも積分できない関数はまだあるが)。これがリーマン積分。ちなみに今の微積分の教科書に載っているようなリーマン積分の定義は、リーマンのオリジナルのものではない。ダルブーの手で洗練されたものである。ルベーグ積分も、教科書に載っているのはオリジナルのものではなくカラテオドリによって抽象的に洗練されたものらしい(測度論の話は、まだ私はやってないのでよくわからんが)。どうも時代の先駆者のアイデアというものはなかなか理解され難く、後の人によりそのアイデアが洗練された功績というのも偉大だもののようだ。この話とは関係は薄いが、リーマンの論文「幾何学の基礎をなす仮説について」は文庫でも読める。しかし、なにが書いてあるかはすごくわかりにくい。数式を飛ばして読んでもすんごいわかりにくい。

 

幾何学の基礎をなす仮説について (ちくま学芸文庫)

幾何学の基礎をなす仮説について (ちくま学芸文庫)

 

 

不連続だけどリーマン積分可能な関数の具体例として、こんなものがある。

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この関数は一実変数、つまり数直線上の関数だが、絶対に図式できない。疑問に思う人がいたら実際に描いてみるとよい。絶対に描けないから。定義はできる、だが図式できない。どんな関数なのかは感じ取るしかない。 Don't Think. FEEL! (いやいや)。数学屋さんからすればこの程度のことを考えるのは当たり前なんだろうけど、私のような門外漢からすればかなりヘンタイっぽい世界に思えてします。だがこのヘンタイっぽさが個人的にはたまらないのだ。

その後、リーマンの三角級数論の未解決問題はカントールも取り組んだ。集合論の創始者として名高いあのカントールカントールははじめはクロネッカーの弟子として数論に取り組み、その後ワイエルシュトラスから解析学を学び、ハイネの影響で三角級数論を始めたという。カントールの論文は三角級数論から始まるが、そこから点集合論、さらに一般の集合論とどんどん話が抽象的に発展していったという。先生はクロネッカーカントールの論文を読んだことがあるらしいが、先生によれば、クロネッカーの論文は明晰だけどカントールのはなにが言いたいのかわかりにくい論文だったのだとか。先生曰く、今でも結果の正しさやアイデアの優秀さは凄いがその反面論文の言いたいことがおぼろげな人もいるし、そういう人の論文を他の人が手直ししようすると怒ることも多いんだとか。あるある(個人の感想です)。

数直線上の関数で、ヘンタイっぽいのをもう一つ。1実変数の関数で①有理数では連続、②無理数では不連続、という関数は存在しないという主張。これはボルテラというイタリアの数学者が、カントールの研究結果を応用して証明したんだとか。実際、証明の途中でカントールの区間縮小法を使った。大学数学の微積分の教科書で、実数の完備性(連続性ともいう)のところで出てくるアレである。単純な定義から作られる摩訶不思議の世界というのはゾクゾクする、と私は思う。それはともかく、つまりカントール集合論はその後の実解析学でも大いに使われたという話である。
カントール以降の時代の、ベールやルベーグの話もあったけどこの話は省略する。証明は省略した概要的な話だったのと、単に私がまだ測度論や位相空間論をやっていないので、このあたりの話は説明できる自信がないから(ごめんなさい)。あと、フーリエ解析学は20世紀以降も発展するけど、その話は今回の講義ではなかった。あっても、まず間違いなく私ではついていけない。
今回の講座の収穫は、1実変数の微積分という一見初歩的な世界でも、深淵が見えないくらいディープな世界であることが体感できたことだろう。沼だ。あと個人的には、振動論のご先祖様を参ることできたのはなんだかしみじみする。

 

新規開設のごあいさつ。

2n2n、またの名を暴力装置マンです。はてなブログを新規開設することにしました。
以前もはてなダイアリーで色々書いていましたが、2009年あたりにTwitterへ手を染めて以来、まとまった長文記事を書くのが億劫になってしまいほとんど更新しなくなってしまいました。
今回のブログ新規開設は単なる気まぐれで始めてみたことですが、メインとする内容はおおまかに決めています。①書評、と②数学、でいこうかと。
①書評は、最近ビブリオバトルや読書会に参加する機会が増えてきたのですが、そこでの発表準備に作ったメモなどをお蔵入りしておくのがもったいないと思い、ちょっと書評形式に書き直した上でここに載せることを考えています。そのほか、これから発表したいと思っている本についても載せるかも。ちなみに「読書メーター」も続けていますが、あそこでは読んだ本や読みたい本の記録として、こっちは思い入れのある本や漫画について語る、という住み分けにしようと考えています。
②について経緯を簡単に説明。私は大学・大学院で建築学の耐震構造を専攻していて、今もとある会社で構造設計のお仕事をしています。数学は昔から好きだったけど、仕事上はそれほど難しい数学は必要とされません。(ぶっちゃけ、足し算と掛け算とルートの計算ができればなんとかなります。そんなもんです。それよりむしろ日本語の解読や作文能力のほうが要求されます)で、本来なら大学で学習するような現代数学のお勉強を始めたのは今から2年前の2014年ごろ。社会人向けに現代数学の私塾に通い始めたこと(ちなみに先生の専門は解析学で、大学院レベルの関数解析を念頭に講座が作られているようですが、専門的な部分の詳しいところは今の私には理解できないので説明不能です。ごめんなさい)。通い始めたきっかけは、これも単なる気まぐれ。お仕事とはまったく別の、趣味としてのんびりやっています。この教室でも毎回色々面白い話を聞いているんで、そういう話をここで書けたらと思っています。
たぶん更新は月にせいぜい1度か2度という、のんびりしたペースになるとは思いますが、よろしければご贔屓に。かしこ。